山口地方裁判所 昭和27年(ワ)167号 判決
原告 林菊治
被告 国
一、主 文
被告は原告に対して下関市大字奥小路町字奥小路第六拾参番地、宅地八拾七坪五合六勺について山口地方法務局下関支局昭和弐拾四年九月弐拾六日受附番号第五八五六号でした同月拾参日附差押による差押登記について無効を登記原因とするまつ消登記手続を履行しなければならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告の訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、其の請求の原因として、萩野友助は昭和二十四年九月十一日下関畳工業株式会社に対して、金十五万円は、利息は定めず、弁済期日は同年九月三十日右弁済期日後は、日歩金二十銭の割合による遅延損害金を支払う。其の売渡担保として右会社所有の主文第一項記載の土地の所有権を譲受け、もし右弁済期日に右元金を支払わない時更めて代物弁済として右土地の所有権を完全に譲渡する契約をする。この特約で貸付け、予め、同年九月十日山口地方法務局下関支局において右土地を右売渡担保にする目的でこれについて同年九月九日附売買予約を原因とする所有権移転請求権保全のための仮登記を経由したところ、右弁済期日を経過しても右会社から右元金の支払を受けなかつたので同年十二月二十六日右会社との間に右元金の代物弁済として右土地所有権を完全に譲受ける合意が成立したが右土地について右仮登記に基く本登記をしなかつたので右元金と之に対する右弁済期日の翌日からの右特約に基く日歩金二十銭の割合による遅延損害金の債権は其のまま存続するところ、昭和二十六年九月一日原告に対して右債権中右元金と之に対する昭和二十四年十一月一日からの右特約に基く日歩金二十銭の割合による遅延損害金の債権を譲渡し、且、右売渡担保の特約に基く右土地の所有権並前述の合意に基く地位をも譲渡した上同日右会社に対して右債権譲渡の通知をし、且、昭和二十七年六月十一日右下関支局において右土地について同日受附番号第三三九七号をもつて右仮登記移転の附記登記を経由した。ところが、右会社は其の後原告に対して、右債権の弁済をしないので原告は昭和二十八年二月二十四日右合意に基いて右下関支局において右土地について昭和二十四年十二月二十六日附売買を原因とする所有権移転本登記を経由して代物弁済を受けて右土地の完全な所有権を取得し前述の仮登記の順位に従つてその日附である昭和二十四年九月九日に遡つて第三者に対してこれを対抗できることになつた。しかるに被告は右会社に対する国税滞納処分として昭和二十四年九月十三日右土地を差押え同月二十六日右下関支局において右土地について主文第一項記載の差押登記を経由しておるからこの差押は右会社の国税滞納処分として原告の所有土地になされたことになる故無効であるし、従て右差押登記も又無効であり、この登記の存在は原告の右所有権の妨害となる。そこで原告は所有権に基いて其の妨害排除のため被告に対して右登記について無効を原因とするまつ消登記手続の履行を求めるために本訴に及んだ。と述べた。
被告の指定代表者は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告の主張事実の中、萩野友助が原告主張の頃下関畳工業株式会社に対して金十五万円を貸付けたこと、原告主張の土地が右会社の所有であつたこと、右会社が右債務の担保として右土地を提供したこと、右土地について原告主張のような仮登記、並登記移転の附記登記、及本登記の存在すること、被告が原告主張のように右土地を差押え、これについてその主張のような差押登記を経由したこと、はいずれも認めるが、其の他の主張事実は全部否認する。即ち、(一)右萩野友助と右会社との間の右消費貸借契約並担保契約は高田吉兵衛が右双方から代理人として委任を受けてしたものであつていわゆる双方代理に該当するから民法第百八条の規定によつて無効である。従てたとえ原告が右萩野友助から債権譲渡を受けてもこれも又無効である。よつてこれに基く前述の仮登記、仮登記移転の附記登記及本登記はいずれも無効である。(二)又右萩野友助は右会社と前述のように右土地について担保契約をしたのにすぎないのであつて売買の予約をしたことはない。従つてこの売買の予約を原因とする右仮登記並右仮登記移転の附記登記はいずれも原因を欠き無効である。(三)仮に原告主張のような売渡担保契約の意味において右売買の予約が有効にされたとしても、右予約の期限は昭和二十四年十二月末日であるのにかかわらず右萩野友助は右期限内に右売買完結の意思表示をした事実はない。従つて右登記は右期限の徒過によつて失効した。それ故原告が其の主張のような本登記を経由しても其の効力は右仮登記の日附の日時に遡らないから右本登記の日以前に右差押登記をした被告には其の所有権の取得を対抗できない。以上の理由によつて原告の本訴請求は失当であるからこれに応ずることはできない。と述べた。
原告の訴訟代理人は、被告の答弁に対して、(一)右高田吉兵衛は右会社の依頼によつて右萩野友助から前述の金十五万円の消費貸借契約を成立させる仲介をしたのにすぎないのであつて、右消費貸借契約も右会社の代理人として右萩野友助の代理人金谷長太郎と締結し現金も右萩野友助から直接受取つたのであるから決して双方代理行為をしたことはない。(二)右売買予約の期限が被告答弁のようであることは認めるが、右萩野友助は右期限迄に右会社と前述のような代物弁済の合意をした上何回となく右会社に対してこの合意に基く本登記の履行を請求したが右会社がただ言を左右にしてこれを履行しなかつたのであるから右仮登記は有効に存続している。(三)その他の答弁事実は否認すると述べた(証拠省略)。
三、理 由
よつて按ずるに、主文第一項記載の土地が下関畳工業株式会社の所有であつたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一、五号証の記載に証人萩野友助、中野賢、大江作一の証言と当事者弁論の全趣旨を綜合すると、萩野友助は昭和二十四年九月十二日右会社に対して、金十五万円を、原告主張のような特約で貸付け、予め同年九月十日山口地方法務局下関支局において、右土地を売渡担保にする目的でこれについて原告主張のような仮登記を経由したことを認められ、被告の提出援用する全証拠では右認定を覆すことができないし、他に右認定を左右できる証拠はない。
しかるに、被告は右消費貸借契約と担保契約とは高田吉兵衛が右双方から代理人として委任を受けてしたいわゆる双方代理に該当するから無効である。と抗弁するが、被告の提出援用する全証拠では右抗弁事実を認められないし、他にこれを認めることができる証拠がないから右抗弁は理由がない。
次に被告は、右仮登記は登記原因を欠いた無効の登記である。と抗弁するが、現行法においては土地の売渡担保についての登記方法に関する規定がないから売渡担保債権者も同債務者も現行法上認められた登記方法によつてその目的を達する外がない。従て右債権者債務者は売買の予約を登記原因とする仮登記か或は買戻の特約附の売買を登記原因とする本登記かいずれかの方法を取るのが現在我国において行われている最も普通の方法であることは当裁判所に顕著であつてこの方法は公序良俗にも強行法にも反しないから有効である。それ故前述の仮登記はこの前者の方法をとつたものであるから登記原因を欠くものではなく有効である。よつてこの抗弁もまた理由がない。
ところで、成立に争のない甲第二、三、五、六号証の記載に前述の証言と当事者弁論の全趣旨とを綜合すると、右萩野友助は右弁済期日を経過しても右会社から右元金の支払を受けなかつたので昭和二十四年十二月二十六日右会社との間に原告主張のような合意が成立したが、これに基く本登記をしなかつたところ、昭和二十六年九月一日原告に対して、その主張のような債権譲渡並右土地の所有権及合意に基く地位の譲渡をした上、右会社に対してその主張のような債権譲渡の通知をし、且昭和二十七年六月十一日右土地についてその主張のような右仮登記の移転の附記登記を経由したところ、原告はその後右会社から右債権の弁済を受けないため、右合意に基いて昭和二十八年二月二十四日右土地についてその主張のような所有権移転の本登記を経由したことを認められ、右認定の一部に反する証人上山義宣の証言は前述の証拠と対照して信用できないし、その他の被告の提出援用する全証拠では右認定を覆すことができないし、他に右認定を左右することができる証拠はない。そして土地の代物弁済契約というものは、債権者債務者間の代物弁済の合意とこれに基いてその土地について債権者名義の所有権移転登記(未登記の土地の場合では保存登記)を経由することによつて成立し、従て、この登記の経由によつて始めて債権債務は代物弁済によつて消滅するものと解すのを相当とするから、右萩野友助の前述の債権譲渡、売渡担保の特約に基く右土地の所有権並合意に基く地位の譲渡は有効であり従て前述の仮登記移転の附記登記並前述の合意に基く所有権移転の本登記もまた有効といわなければならない。
しかるに、被告は、右仮登記移転の附記登記も登記原因を欠いた無効の登記である。と抗弁するが、前述のような理由で現行法上このような登記方法を取らざるを得ないのであるからこの附記登記もまた登記原因を欠くものではなく有効である。よつてこの抗弁もまた理由がない。
そこで原告は右代物弁済契約の成立によつて完全に右土地の所有権を取得し前述の仮登記の順位に従てその日附である昭和二十四年九月九日に遡つて第三者に対してこの所有権を対抗できることになつたものといわなければならない。従つて右認定に反する事実を前提とする被告の反駁は採用しない。
しかるに、被告は、右会社に対する国税滞納処分として昭和二十四年九月十三日右土地を差押え、同月二十六日主文第一項記載のような差押登記を経由したことは当事者間に争がない。
そうすると、被告の右差押は右会社の国税滞納処分として原告の所有土地になされたことになるから無効であるし、従て右差押登記もまた無効であるといわなければならない。そして、この登記の存在は原告の右土地の所有権行使の妨害となることは明かである。
そこで原告は右土地の所有権に基いてその妨害排除のため被告に対して右登記について無効を登記原因とする抹消登記手続の履行を請求する権利があり被告はこれを履行する義務がある。
よつて原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。
(裁判官 三好昇)